相続税の納付は原則現金での納付と定められておりますが、相続財産の多くが不動産などで現金が不足し支払いが出来ない場合も少なくありません。
その場合、「相続税を延納したらいくらの利子税を払う?延滞税との違いを解説」にて解説を行いましたが、延納し支払うことになりますが、それでも支払いが出来ない場合に「物納」する方法があります。
今回はこの「物納」とはどのような制度なのか要件・対象財産・メリット・デメリットについて解説を行います。
相続税における物納とは
相続税における物納とは、現金、延納でも相続税の納付が困難な場合に現物で相続税を納めることが出来る制度になります。ただし、全額を物納することは出来ず、現金での支払いができない部分に対して物納が適用されることになります。
相続税の物納は一般的には不動産が中心となりますが、その際「不動産の現在価値で物納が出来る訳ではなく、相続税評価額によって算出される」点に注意しましょう。
具体例としては、不動産の現在価値が2億円だったとしても相続税における財産評価で1億7000万円と算出した場合、物納をしても2億円ではなく1億7000万円となります。
相続税の物納要件
では、どのような人が物納を利用できるのか要件を確認してみましょう。
- 延納でも相続税の納付が難しい理由がある
- 延納の対象財産として認められる物であり、その財産が日本国内にあること
- 第1順位の財産から適用され、第2順位の財産は第1順位の財産がない時に適用される
- 相続税の申告期限までに物納申請書を税務署に提出していること
上記の要件を全て満たしていることが物納を活用する要件となりますが、②の対象となる財産と③の財産の順位についてどのような物が該当するのか確認してみましょう。
物納できる財産と順位
物納と言えば「不動産」と考えるのが一般的ではありますが、平成29年の税制改正によって第1順位に上場株式なども加わりました。
また、第2順位の非上場株式などは第1順位を保有していない場合に初めて適用されますので、基本的には第1順位から確認をするようにしましょう。
順位 | 財産の種類 |
第1順位 |
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第2順位 |
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第3順位 |
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物納できない財産の種類
上記に該当しないものは基本物納することは出来ません。加えて、上記に該当する場合も国が処分することが出来ない物や困難な物は対象外となります。(管理処分不適格財産と呼びます)
例えば、「既に担保の対象になっている不動産」、「権利関係で揉めている不動産」、「境界線が不明瞭な土地」などは管理処分不適格財産扱いされてしまい物納の対象からは外されてしまいます。
一般の不動産などであれば問題ありませんが、被相続人の財産が不動産中心であり上記に該当するような場合は生前からしっかりと対策を講じる必要があるでしょう。
物納のメリット・デメリット
ここまで物納要件と対象財産について解説を行いましたので、物納がどのような制度なのか大筋理解出来たかと思います。ここで物納を行うメリットとデメリットを整理したいと思います。
メリット | デメリット |
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上記のようなメリットやデメリットがありますが、実際にいくらの相続財産を保有しているのか。またその種類や状態によって物納を行うほうが良いのか悪いのかは分かれてくるでしょう。
そのため、税理士などに相談し的確なアドバイスをもらうことをおすすめします。その際、「相続税の相談や申告に強い税理士の選び方と目安費用を解説」を参照いただき相続税を専門とする税理士に依頼しなければ的確なアドバイスが受けられない場合もありますので慎重に税理士は選びましょう。
その際、「税理士ドットコム」を活用し税理士を一括で問い合わせし比較することをおすすめします。
物納件数の推移
最後に物納件数の推移を平成12年から平成27までまとめましたので参照してみましょう。

上記の通り、平成12年には6100件あった物納も平成27年には130件まで減少しています。これは平成18年に税制改正があり物納不適格財産をしっかりと定めたことが影響しているようです。
まとめ
相続税の物納について要件・対象財産・メリット・デメリットについて解説を行いました。
被相続人の財産の状況がどのような配分となっているのかは生前からしっかりと把握しておくことで取るべき打ち手も変わってくるでしょう。
不動産は小規模宅地の特例など大きな控除もありますので出来る限り延納や物納をせずに相続税の支払いができるように準備しましょう。
小規模宅地の特例の詳しい解説は「最大80%も減額される小規模宅地の特例とは?制度・要件を徹底解説」をご参照ください。