【老後の相談室Vol.5】老人ホームの入居費が足りない夫婦の選択







中小企業でそこそこの生活を続けてきました。妻は少し体が弱いということもあり、自宅を手放して老人ホームへの入居を考えているのですが、かなり高額な介護費用が発生することや入居後の人間関係で悩むことはないのか?など、不安で決めかねています。私のようなタイプはどのような選択がよいのでしょうか?

相談者のプロフィール

  • 年齢:夫Aさん65歳・妻Bさん65歳
  • 住宅:東京都内の持ち家に居住・妻と二人暮らし
  • 老後資金:退職金500万円・退職金以外に貯蓄700万円・年金有り

お子さんがいなかったり、いても遠方に住んでいたりすると、老人ホームへの入居を考える人も多いです。しかしAさん夫妻のように、高額な一時金・入居費用がかかることや、入居後の人間関係に不安を抱く人も多いです。まずは老人ホーム以外の選択も含めて回答したいと思います。

老人ホームとは

Aさんに話を聞くと、老人ホームにかかる金額が具体的にどの程度なのかを把握していませんでした。「施設の広告やインターネットサイトを調べたのですが、金額がまちまちで平均額がわからなかった」ということです。これは、老人ホームにもいくつかの種類があること、また、支払い方法も施設ごとに異なるためです。

入居型老人ホームの種類

比較的安価で入居できる入居施設といえば特別養護老人ホーム、略して「特養」です。社会福祉法人や自治体が運営しているため入居費用が抑えられ、かつ介護やリハビリを受けることができるため非常に人気が高いです。

しかし人気ゆえに入居への門は狭く、2016年4月時点で待機者が約36万6千人に上ります。入所希望者が多すぎたせいか、最近入居要件が「要介護3以上」と厳しくなりましたがそれでもなお大量の待機者がいます。

結論として、特養はなかなか入れないと言わざるを得ません。そのため、入居するとしたら民間の有料老人ホームになるでしょう。Aさん夫妻の望む介護付き有料老人ホームの相場はどのくらいなのでしょう。

介護付き有料老人ホームの目安

  • 入居一時金:0円~数千万円
  • 月額利用料:賃料・管理費・食費などの合計で、12万~40万円程度が目安
  • 介護費用:利用する介護サービスの1割(場合によっては2~3割)
  • その他の費用:おむつなどの介護用品や、入浴・散髪など生活サービスが別途発生することも

入居一時金も月額利用料も幅がありますが、これは入居一時金が少なければ月額利用料が高く、一時金を多く出せば月額利用料が低くなるという仕組みだからです。

老人ホーム入居の可能性は

Aさん夫妻の手持ち資金は退職金と貯蓄を合わせて1,200万円です。自宅を売却すると1,500万円程度の現金は入る見込みなので、合計2,700万円を資産と考えます。そのうち300万円を入院・病気などの医療費、300万円を葬儀費用として確保、更に入居一時金を100万円とします。

その場合、使える資金上限は2,000万円です。Aさんは現在の住まいから大きく離れた場所にいくのは嫌だそうです。東京23区で老人ホームの料金を調べてみました。入居一時金を100万円程度に抑えると、夫妻の月額利用料は安くても30万~40万円が見込まれます。介護費用やその他の費用、場合によっては医療費もかかります。仮に毎月発生する費用を50万円と見積もると年間支出は600万円です。年金収入が約220万円ですので、毎月380万円の赤字です。

毎年これだけの赤字がでると、2,000万円もの資金も5年あまりで底をついてしまいます。これでは、安心した老後はとても望めません。そこでAさん夫妻には、家を手放さず介護が必要になったら在宅でのケアをすることをおすすめしました。

在宅型介護と民間老人ホームの違い

在宅介護であれば、ネックである入居一時金も月額使用料も発生しません。在宅で受ける介護サービスは、所得にもよりますが原則1割負担です。自己負担限度額はありますが、時間的に受けられるサービスには限界があり、よほど詰め込まないと上限額を超えることはありません。

価格面で圧倒的に有利なのが在宅介護なのです。「しかし、家での介護はつらくて苦しいだけで、介護する側、される側双方にとって不幸なことなのではないでしょうか?」というのは妻のBさんです。体の弱い自分が夫に迷惑をかけることを恐れているようです。

確かに世間では老老介護の末の不幸な事件や事故もあり、Bさんの不安ももっともです。しかし、「在宅=不十分な介護」ではありません。在宅介護にどのような介護サービスがあるのかご紹介します。

在宅介護のサービス

  • 訪問介護・訪問入浴介護
  • 訪問看護・訪問リハビリテーション
  • 通所介護・通所リハビリテーション
  • 福祉用具貸与(車いす・介護ベッドなど)
  • 短期入所生

訪問サービスの中にも「介護」「入浴」「看護」「リハビリテーション」など、用途や介護者の状況に合わせたサービスがあるのが分かります。思ったよりもきめ細やかなケアが受けられると知ってほっとした様子のBさんですが、それでも自宅での介護は夫の負担が大きいのではと決断しきれない様子です。

そこで、介護保険の限度内でも、月に2回程度はショートステイが利用できることを伝えました。介護度が進行すると月2回は難しいかもしれませんが、要支援状態ならば他のサービスの利用を抑えられる分、月に2回程度のショートステイも可能です。また、最近では介護保険で24時間対応の定期巡回・随時対応サービスが登場しています。定期訪問だけでなく、利用者が望めば深夜でも訪問を受けられるシステムです。Aさん自身が体調不良の際や、疲労がたまっている時はショートステイで体力的な負担を減らすことができます。

さらに24時間対応のこのサービスを利用すれば、夜中に万が一のことがあっても助けを求めることができるので安心です。「大事なのは、お金をかけることではなく、在宅介護をうまく活用する方法を知ること」Aさん夫妻は、「自宅介護=すべて自分で行わなくてはならない」という思い込みに捕らわれていたことを自覚したようです。

自宅暮らしのメリット

Aさん夫妻の場合は、費用面から消去法で在宅介護を提案しましたが、費用面以外にも自宅暮らしのメリットはあります。大きいのはやはり、慣れ親しんだ自宅で暮らせるということでしょう。とくに老齢期は自宅を拠点とした人間関係が形成されることが多く、環境が変わることで介護状態を悪化させる恐れもあります。

また、老人ホームに入居するために自宅売却を前提としている点もリスクが高いといえます。冒頭でAさんがいうように、退所を望んだ時の選択肢がないからです。一度入居した後に人間関係がうまくいかず他の道を探っても、自宅という資産を売却してしまうと他にとれる手が極端に少なくなってしまいます。まずは在宅介護を行い、どうしても介護が苦しくなった時に自宅を売却する、

もしくはリバースモーゲージで自宅を担保に資金を得るなどの方法があります。自宅の売却は慎重に行いたいです。

それでも入居介護を望むならば

在宅介護を選ぶということで今回の相談は落ち着きしましたが、他にも比較的元気な方が暮らすケアハウスや認知症高齢者が共同で暮らすグループホームがあることもご紹介しました。特にケアハウスは月額利用料が低い傾向にあります。夫婦でいるうちは在宅が基本でも先立たれて一人になったら再度入居を検討することになるかもしれません。将来に備えて、自宅の近くにこのような施設があるか、日頃から情報収入しておくといいでしょう。

予防が何より大切

いくら在宅介護の制度が整っていても、症状が進行すれば介護者の負担は増してしまいます。体の弱いBさんこそ、健康に留意する必要があります。最近は、介護費用を抑制するために自治体も予防事業に力を入れています。自治体の健康診断や体操・運動の会、交流会などさまざまな制度や予防活動があるので利用したいです。

まとめ

今回、施設に入居することが一番いい介護方法である、という考えの相談者がいらっしゃいました。しかし必ずしもそうではありません。子供のいない夫婦の場合、施設に入らないとやっていけないのではないか、と思い詰めてしまいがちです。

しかし最初から入居ありきの介護設計は、費用面からも、ライフプランの観点からもおすすめしません。自宅を早期に売却してしまうと、将来の選択肢を狭めることにもなってしまいます。介護のプランニングは、在宅介護も視野に入れて行いましょう。









ABOUTこの記事をかいた人

横山 晴美

AFP/住宅ローンアドバイザー。 企業に属さない独立FP。2013年ライフプラン応援事務所を立ち上げて以降、住宅相談を専門に扱う。マイホームの購入相談では保険見直し、教育費、退職後プランなど総合的な視点で資金計画、および返済計画を考案する。安心して住宅を購入できるだけでなく、家計の課題も解決できるとの声を頂いている。相談業務のほか、セミナー講師、執筆業など情報発信、啓蒙活動にも力を入れている。