年金制度改革法案(年金カット法案)の強制可決の背景と影響範囲を解説







2016年秋、年金制度改革法案が可決されました。この法案は別名、「年金カット法案」とも呼ばれ、野党の反対意見がメディアで大きく報じられました。この年金カット法案が採決されたのは、どのような背景があるのでしょうか。また、老後資金への影響はどのようなことが考えられるのでしょうか。

年金制度改革法案(年金カット法案)とは

年金制度改革法案(以下:年金法案)は、現状の年金支給状況の「歪み」を是正するために起案された法律です。まずはこの歪みについて考えてみましょう。

公的年金の支給額は、「物価」と「賃金」によって決まります。物価とはモノの値段のことで、賃金とは主に会社員の方が勤務先から受け取る給料や報酬のことです。

この2つは本来、物価が上昇すると賃金も上昇、物価が下落すると賃金も下落することが理想です。このときは公的年金の支給額を上げることも求められます。ただ、物価が上昇しても、企業や経済に「先行き不安感」があり、賃金が上昇しない場合があります。また、賃金が上昇しても、物価が賃金以上の「上昇幅」を示す場合があります。これは公的年金にとって、望まぬ事態です。これに対して、現在の公的年金は「マクロ経済スライド」という方法の導入を発表しています。

 マクロ経済スライドは、今後も100年、年金制度が続くように、年金給付額を調整する仕組みです。ただ、これまでのマクロ経済スライドでは、物価と賃金が「マイナス」になったとき、また賃金の上昇幅が物価上昇幅に比べて低いときに、年金支給額を改定することはしていませんでした。

年金支給額の下落が、高齢者世帯への直接的な負担増となるため、そしてマイナス移動への動きが、「年金負担増」と批判されるためです。年金法案は、この「マイナス時の引き下げを撤廃する法律」です。言い換えると、マクロ経済スライドが稼働するための法案が今回の年金法案といえます。そのために、「年金カット法案」という名前がついています。更に具体的にいうと、この機能を「キャリーオーバー方式」といいます。キャリーオーバーという言葉は、宝くじでよく耳にしますね。この考え方と一緒です。

年金カット法案のキャリーオーバー方式とは?

マクロ経済スライドのマイナス時の年金引き下げを、翌年度以降に持ち越し(キャリーオーバーをして)、翌年以降の上昇率と「相殺」しようとする考え方です。物価や賃金の下がる景気後退期には年金支給額の下がる負担増はないものの、翌年経済が好転すると、「年金制度を維持するために」、減額分を入れようとする考え方です。これにより、現状よりも更に現実に即した公的年金制度を継続することができます。

キャリーオーバー方式の導入は、まさに「100年継続する年金制度を実現すること」です。年金は賦課方式を採用しており、現在年金を納めている「現役世代」も現在の年金支給年齢(65歳)から受給できなければ年金を納める意味がありません。

公的年金には「相互補助」の考え方があります。このあいだ若手のFPが年配の同業者を相手に議論をしていました。その時に「いまの若手は『年金を納めていない』という指摘があるが、いま年金を受け取っている世代も若い時に「自分たちが遅延なく貰えるかどうかはわからない」といわれていたら年金を納めてはいなかったはず」と主張し、同世代から拍手を受けていました。年金法案は、その視点からいうと、「年金の平等化」に向けての法案といえます。

年金カット法案が強行採決された背景

ここからは年金カット法案の採決について見ていきます。政府与党が提出した法案が成立すると、民進党を始めとする野党は年金支給額について現在より5.2%も減少。具体的な金額とすると国民年金で年間約4万円、厚生年金にいたっては年間約14.2万円も減少すると批判しています。その代わりに、根本的な年金制度改革を行うことが優先だと主張しています。

政府与党も野党も、様々な問題がある年金制度を健全化したいという主張は同じです。それに対し、現在政権を担う与党は現役世代の支給額を調整して、将来の支給額を維持する政策を打ち出し、野党はそれに対し、現役世代も将来世代も負担しない方法を提案しようとしています。

厚生労働省の試算によると、今回の年金法案ルールを継続適用した場合、現在の支給世代への受給額は今よりも3%減少するものの、将来世代の受給額は7%上昇するという結果になりました。これに対し野党は、前提としている経済見通しが甘いとして反発しています。

 この2種類の政策のどちらがいいのかは、読者の意見も分かれるため述べませんが、野党の掲げる「根本的な年金改革」が未だ出てこないのも事実です。これに対し、与党は協議を打ち切り、強行採決という方法によって法案を成立させました。

若年層は年金が貰えなくなるのか

現在年金議論で謳われている「根本的な年金制度」が完成するのなら、現在の受給世代も現役世代も納得できる年金制度が完成することでしょう。ただ、「現状を見た年金制度の修正案」が提示されたとしても、非難の相次ぐ現在の政策議論を見るとこのようなやり取りが続いていくのかと思われます。

そのうち、「年金支給額は70歳から」や、「現実的に年金制度としてはこの金額が上限」といったテーマにシフトしていくのではないかと筆者は考えています。言い換えれば「年金が貰えなくなる」ということはないとは思いますが、現在の支給レートである公的年金を維持するために、議論しなければいけないタイミングといえるのかもしれません。そうすると、年金法案として耳目を集めた今回の議論は、とても効果的であったといえるでしょうか。

「年金以外」と組み合わせた議論を

仮に「年金が70歳から」と決まったとき、どのような議論が巻き起こるのでしょうか。おそらく政権与党は「現状を考えれば70歳からの支給開始は止むを得ない」と主張し、反論は「責任論」と「抜本改革が必要」と対抗するのだと思います。

 どちらが正しいのか間違っているかはなく、そのような議論をされてからと言って、一生懸命年金を払ってきた現役世代の年金額が(議論の結果によって)上がることはありません。大切なのは、「年金以外と組み合わせた議論をすること」だと考えられます。

たとえば70歳から年金支給とするならば、会社員の定年を70歳までにする、自分で判断できる私的年金を殖やすといった施策がとられることが必須です。実際に現在「働き方改革」としてフリーランサーや副業など、様々な働き方が認められるようになってきました。加えて、リバースモーゲージリスク対策に国が介入することもその一つです。

また、確定拠出年金(iDeCo)の加入が推奨されています。この年金制度は、加入者が「自分の意思によって」運用銘柄を選択し、その効果を享受していく種類の年金制度です。現在の年金制度の問題点をすべて解決する方法は不可能なので(可能ならば既に提唱されているでしょう)、そのうえで年金加入を「選択制」としていくことが良いのではないかと考えられています。

まとめ

ただ、選択制は現在の受給世代の受給額を下げる可能性があるため、おそらく猛烈な反対が起こるものと考えられます。今回の年金法案を皮切りに、今後何ができるのか、国民全体を巻き込んだ将来の年金制度を考える機会が生まれてくることに期待したいものです。また、現在年金を受給している世代のみならず、これから年金を受け取る世代は、政権与党と野党によって自分たちの負担が増えるのか減るのか、「言っていることが違う」というのも大きな特徴です。自分たちで情報を取捨選択し、考えていくことも大きなポイントといえます。









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ABOUTこの記事をかいた人

工藤 崇

株式会社FP-MYS代表取締役社長兼CEO。ファイナンシャルプランニング(FP)を通じて、Fintech領域のリテラシーを上げたいとお考えの個人、 FP領域を活用して、Fintechビジネスを開始、発展させたいとする法人のアドバイザーやプロダクトの受注を請け負っている。Fintechベンチャー集積拠点Finolab(フィノラボ)入居企業。執筆実績多数。東京都千代田区大手町。