相続税はとても複雑な手続きを要します。相続税法をはじめとした法律の知識も必要です。そのような特徴を持つ相続を知るためには、実際にこれまで相続を経験した家庭がどのような対応をしてきたのか、「隣の芝生」を知ることはとても大切です。相続に関する様々なケーススタディを確認しましょう。
目次
実家の相続に活用できる「小規模宅地の特例」
実家を相続するときに、何か相続税を軽減する方法がないか悩んでいるAさん。妻であるBさんに、できるだけ税金のかからない資産承継を希望している。Aさんが活用できる相続対策について知りたい。
相談者の状況
- 現在60歳。妻のBさんは57歳
- 神奈川県内に木造で築20年の居住用住宅を所有。敷地面積200㎡。
- 住宅ローン返済住み。5年前にリフォーム工事を行った。
- 妻BさんはAさん死亡後も、引き続き現在の住宅に住み続けたい。
- Aさんは「妻に住宅を相続させる」という旨の自筆証書遺言を書いている。
回答
AさんはBさんに住宅を相続する場合、相続税軽減の方法として小規模宅地の特例を利用することができます。この特例は、相続税の根拠となる不動産の評価額を大幅に削減する特例です。相続時において、配偶者に居住用住宅を相続する際に活用することができます。
この特例は、残された家族が生活するために不可欠な資産において、課税対象となって生活基盤を失うことのないように設けられています。必要最低限の範囲についてのみ軽減するので、適用する面積に限度があり、また満たさなければならない要件がいくつかあります。
対象地の種類 | 対象面積 | 減額割合 | |
居住用 | 特定居住用宅地等(住宅が建っている土地) | 330㎡ | 80% |
事業用 | 特定事業用宅地等(事業で使っている土地) | 400㎡ | 80% |
特定同族会社事業用宅地等 | 400㎡ | 80% | |
賃貸住宅敷地・駐車場その他の敷地 | 200㎡ | 50% |
小規模宅地の特例を適用するための条件
- 被相続人の配偶者が相続した場合は、制約なく特例の適用が可能です。
- 被相続人と同居していた配偶者以外の親族が相続した場合は、相続税の申告期限の時まで自宅の土地建物に居住していた期間、特例の適用が可能。申告期限(亡くなった時から10か月)よりも前に自宅を売却してしまった場合は適用不可である点に注意しなければなりません。
- 賃貸住宅などに居住中の子どもなどが相続した場合は対象。マイホームをすでに購入済みの子供が相続した場合等は特例の適用は受けられないということです。
- 相続申告をしなければ、適用したことになりません。
相続対策で賃貸マンションを建設するときのポイント
Cさんは先代から相続した土地が東京の港区にあって、不動産会社の営業マンに強く勧められている賃貸マンションの建設を考えている。相続税上のメリットもあると聞いたが、詳しく教えて欲しい。
相談者の状況
- 2億円の現金資産をメガバンクの普通預金に預けている。
- 法定相続人の子どもは長男と長女の2人
- 賃貸マンションを建てる場合は、Cさん名義。Cさんの死亡後は長男に相続予定で、長男も同意済み。
回答
Cさんの認識通り、相続が発生したときに現預金や有価証券などは、保有金額そのままに相続税が課税されます。2億円の現預金がある場合、課税される税率はなんと40%!そのまま相続税が課税されてしまうのです。しかし、それが不動産だと安くなります。
2億円で建物を建てた瞬間、相続税の計算に使用される建物の評価額は2億円ではなくなるためです。相続税を計算した時の建物の評価額は、建築した時にかかった建築費ではなく、固定資産税のための評価額によって決められるからです。
この固定資産税の評価額は、国が定めた「固定資産評価基準」に基づいて市区町村が決めています。この評価額は、建物についてはだいたい建築費の40%~50%とされています。
つまり、2億円で建物を建てると、その建物の固定資産税評価額は半額以下になり、相続税の評価額も下がります。 これを活用して、相続資産として建物を建てる方法があります。また、2億円を預貯金ではなく「借入金」とすることで、相続資産額を圧縮することも可能です。
生命保険活用の節税スキーム
Dさんは「相続対策に生命保険を活用できる」と営業マンから聞いた。500万円の非課税枠があるのは知っているが詳しくは知らない。どのようなスキームなのか知りたい。
相談者の状況
- 20歳と17歳の娘2人がいる
- Dさんが終身保険の被保険者になり、長女に生命保険金を渡したい
- 次女には長女と同額分の現金を渡すため貯金をしている
回答
生命保険金の受取人を長男とした場合、長男が受け取った生命保険金は、ほかの現金や不動産の評価額とともに相続財産として加算されます。これを、見なし相続財産といいます。生命保険にして次世代に相続する場合、法定相続分1人につき500万円の非課税枠が設けられています。
不動産と同じく、生命保険も現金を相続する際と比較して相続資産の「圧縮」をすることができます。非課税枠の対象になる「法定相続人」とは、財産を所有していた方が亡くなった際の、「財産を引き継ぐ権利のある方」のこと。死亡者の奥様、お子様、兄弟姉妹が該当します。法定相続人が多ければ、生命保険の非課税枠も増えていきます。
(相続時の)生命保険の非課税枠 = 法定相続人の数×500万円 |
実は「危険」なタワーマンションを使った相続税節税
Eさんは長く江東区に居住する弁護士。「タワーマンションを使うと相続税の節税対策になる」と聞いたが、一方で税務署が指導をして、もう使えないとも聞いた。最新の状況はどうなっているのか。
相談者の状況
- 5年~10年後に相続発生を想定。
- 現金資産1億円程度。弁護士事務所を経営しているため、今後も定期的な収入が想定できる
- タワーマンションは豊洲の新築を現金一括で購入予定。
- 居住用ではなく投資用。相続後の売却は考えていないが、資産形成の結果不要ならば売ることもあると思う。
回答
「タワーマンションを購入することで節税ができる」という話を聞いたことがあるでしょうか。タワーマンションを購入した時価と相続税評価額の差を活用して、相続の直前にタワーマンションを購入し、相続後すぐに売却をする方法が一時期注目されました。ただ、最近は国税庁から注意され、「危険な相続対策」としての認識が強くあります。
タワーマンション節税のスキーム
タワーマンションは一般的なマンションに比べて階数が多く、比例して部屋数も多いという特徴を持ちます。持ち分割合を配分する部屋数も多くなるため、「一般的なマンションに比べて」、評価額が低く抑えられる傾向がありました。
この方法は違法行為ではないのですが、雑誌やメディアで「タワマン節税に注目」という話で出回り、購入後居住実績もなく、相続を迎え売却するという「財テク」の面が強調されました。住まいを上手に使った節税という面ではなく、あくまで節税対策の「税金逃れ」として指摘されました。タワマンを購入する世帯しか使えない方法という点も不公平感を醸成しています。
国税庁は2018年以降のタワマン物件から、高層階の固定資産評価額を上昇する牽制案を打ち出す予定です。これによりタワーマンションは、財テクではなく居住用目的として活用し、結果的に節税効果が期待できる、という構図に変わっていくことでしょう。
暦年贈与を上手に活用するときのポイント
Fさんは贈与税を工夫すると税金がかからなくなると聞いた。1000万円の資産があるが、できるだけ税金を支払わずに子世代に資産を承継したい。どのように活用するといいか。
相談者の状況
- 相談者は1000万円の現金資産を所有。
- 長男は5歳
- 子どもが増えることはないと思うので、可能な限り長男に財産を承継したい。
回答
相続税対策と言えば代表的なのは生前に資産を映す「贈与」です。1年間110万円までは「暦年贈与」として税金がかからない特徴があります。ただ、たとえば資産1,000万円所有していて、本来ならば相続税がかかるところを非課税目的で110万円に区分している場合は、追加で課税される場合も。それらは「連年贈与」といわれます。連年贈与にならないポイントは以下の3つ。
(1) 贈与するごとに「贈与契約書」をこまめに作成すること(毎年〇〇万円を贈与、という形式にしない)。贈与契約書には双方の署名捺印を忘れない(同意の贈与行為であることを示す)。 (2) 毎年110万円ではなく、100万円や105万円など、「金額の異なる贈与」とする。 (3) 贈与を受けたものが、その財産を管理して、自由に処分できるようにする(銀行口座は、贈与を受けたものの名義とする)
このように暦年贈与を活用するときは、上手に贈与のスキームを組み立てることが大切です。
まとめ
このように相続対策、および贈与対策は不動産、証券や各種制度を上手に活用したスキームづくりが大切です。専門家などに相談しながら、本稿の事例を参考にして相続対策を組み立てるようにしましょう。