【老後の相談室Vol.4】退職金がない|年収1,000万円の58歳男性が恐る老後破産の危険







相談者は58歳男性のヤマモトさん。独身で年収は1,000万円。住まいは都心の高層マンションで同僚と飲むのとワイン収集が趣味。貯蓄額は500万円程度と年収からみると低めだが、年収が高いので生活に不安はなかった。しかし、60歳が近くなり老後の生活が不安に。退職金がない会社であることも手伝い、老後資金の相談に来た。

退職金があれば解決するのか

老後資金の心配を抱えるヤマモトさんは「退職金さえあれば」と言います。しかし、高年収の割に貯蓄が少ないことを考えると問題は退職金の有無ではなく、お金の使い方にあると考えられます。
そもそも、退職金があれば貯蓄が少なくともいいのか、というとそうではありません。

一般的な退職金の額は中小企業の場合1,000万円程度、中小業に限らない統計でも平均額は2,000万円を超えません。必要な老後資金は3,000万円から3,500万円とされる今、退職金がもらえるとしても自己努力は必要になります。

老後資金は自ら作る時代

更に近年は、運用次第で受取額が変わる「確定拠出年金」の登場で、会社の退職金を「座して待つ」のではなく、自ら運用して退職金を作っていこう、という時代です。退職金制度がないことを理由にしてしまっては先に進めません。上記のようなことを話し、依頼者の意識を変えるところが今回の相談の第一歩でした。

貯蓄が少ない理由は

退職後の不安をなくすためには、お金との付き合い方そのものを見直す必要があることを伝え、お金の使い道や家計状況をヒアリングしました。すると、ボーナスの一部を貯蓄に回しており、年間50万円程度は貯蓄できていることが分かりました。年50万円貯蓄ができるならば、年齢的にもう少し貯蓄があってもいいはずです。実はヤマモトさんは、10年前のマンション購入時にそれまでの貯蓄を頭金としてほぼ放出してしまっていたのです。

住宅ローンの見直しを実行

頭金に充てたのは2,000万円。それでもなお3,000万円のローンを組んで購入しました。以下が住宅ローンの状況です。

10年前の住宅ローン状況

3,000万円を金利3%(全期間固定)、返済期間20年で借入

金利

毎月返済額

年間返済額

3%

16.7万円

約200万円

このまま返済を続けると、定年時の住宅ローン残高は約570万円です。定年時に残金を一括返済することも可能ですが、3%という金利を考えると、その前に借り換えをしたいです。もともと返済期間が20年と短かったために、残りの住宅ローン期間は10年間です。

残りの返済期間が少ないため金利軽減効果が少ないと判断していたようですが、金利の差が大きいので毎月返済額も十分に抑圧できます。現在の住宅ローン残高である約1,723万円を、金利1%で借り換えるとどのようになるのでしょうか。

住宅ローンを借り換え

1,000万円を、金利1%、返済期間10年で借り換え

金利

毎月返済額

年間返済額

1%

15.1万円

181.2万円

これだけで、年間19.2万円が削減できました。しかし、軽減額をすべて貯蓄に回してもまだ老後資金には足りません。住宅ローン以外にもなおまだ支出は引き締めの余地があります。実際に退職後の生活がどうなるのかを考えつつ、突っ込んだ話をしていくことにしました。

将来を見通そう

ヤマモトさんは不安を感じているらしいが、実際に今は豊かな暮らしをしていて「不安」に現実味がないようです。このままの生活を続けるとどうなるのか、収支を確認してみました。

収入の見通しを立てる

50歳になると、ねんきん定期便で年金の見込み額を確認することができます。年金定期便を紛失してしまった場合は、日本年金機構の「ねんきんネット」や「ねんきんダイヤル」などを利用して見込み額を知ることができます。ヤマモトさんの場合は、受給額が年間約200万円でした。

定年(65歳)までに用意できる額

  • 現状ベース:50万円×7年=350万円
  • 住宅ローン軽減分:年間19.2万円×7年=192万円
現在の貯蓄500万円を合わせると

  • 500万円+350万円+192万円=1042万円

定年時に535万円を繰り上げ返済するので定年時の老後資金は「507万円」となる。現状では、住宅ローン以外の支出は750万円。退職後の年金収入が200万円だと、毎年の赤字は550万円です。これらにより、退職の翌年には老後資金が枯渇することが予想されます。

老後破産を防ぐために

現実的に老後資金が圧倒的に足りないことが判明しました。資金を得る大きな手段として、高値での売却が見込まれるマンションを売り、価格帯の低いマンションへの住み替えがあります。しかし、ヤマモトさんにしてみれば居住マンションは48歳にして貯蓄のほとんどをつぎ込んで購入した「城」であり手放したくないようです。

自宅の売却を避けるために、支出を削減することは苦にならないようです。もともとヤマモトさんは48歳まで2,000万円を貯めた実績を持ちます。話を聞くと、マンション購入とともに気持ちが緩み支出が増加したようです。

まずは1,000万円を目標に

たとえ浪費家ではないとはいえ、必要とされる「老後資金3,000万円」をいきなり用意しようというのはバードルが高いです。まずは、あと7年で1,000万円の積み増しを目標とすることにしました。 1,000万円を7年かけて作るとすると、年間貯蓄額は142万円です。現状で住宅ローン以外に750万円の支出がありますが、これを年間500万円にするということです。 そのために、以下の2点を実行することにしました。

老後資金1,000万円を貯めるためのアクション

  • 今まで一部は取り崩していたボーナスを「全額手を付けないお金」とする
  • 毎月6.8万円は先取り貯蓄で確保

実はこの2点だけで、年間142万円が貯蓄できることが分かりました。毎月6.8万円の先取りは難しいような気もしますが、もともとの月間支出が62.5万円であることを考えると、削減率は1割強と、決して大きい割合ではありません。

意識を変えて行っていくとヤマモトさんも納得しています。ヤマモトさんは、目標があると燃えるタイプなので、具体的、かつ現実味のある提案にかなり乗り気です。

不足分はどうすればいいのか

ここまでの見直しで、貯蓄1,000万円と年金収入200万円となりました。年間支出を250万円(毎月20万円支出)に抑えれば85歳まで生活が可能となりました。ヤマモトさん曰く、住宅ローン負担がなくなるし、退職して飲み歩く習慣にさえ気を付ければ達成できるのではないか、と楽観的です。しかし、現状は住宅ローン以外の支出が年間750万円に上っていることを鑑みるとやや不安が残ります。

今後は定期的に家計をコンサルし、更なる家計スリム化を図り老後生活の安定を計ることになりました。 今回、現状把握を行ったことで、老後資金の問題は退職金の有無ではなく現在のお金の使い方にある、ということを依頼者に分かってもらいました。

最終的に、今は手放す気にならないマンションも、将来ライフスタイルが変われば住み替えを検討するかもしれない、というところまでヤマモトさんの意識は変わりました。

逆に現在の住まいにこだわるならば自宅を担保に入れて借り入れを行うリバースモーゲージという選択もあります。老後資金がない、という現実と向き合ったからこそ、「マンションを担保に老後資金を借り入れしよう」と前向きな考えが出てきたと考えられます。

老後資金は、あきらめたら老後破産の始まり

退職金がないからと、老後資金対策をあきらめてしまっては何も解決しません。原因を探れば対処法は必ずあります。抜本的な解決策ではないかもしれませんが地道に貯蓄の積み増しや生活費の見直しを計ることで、未来は拓けるはずです。定年が近いからとあきらめず、出来ることを行って、老後破産を回避しましょう。









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ABOUTこの記事をかいた人

横山 晴美

AFP/住宅ローンアドバイザー。 企業に属さない独立FP。2013年ライフプラン応援事務所を立ち上げて以降、住宅相談を専門に扱う。マイホームの購入相談では保険見直し、教育費、退職後プランなど総合的な視点で資金計画、および返済計画を考案する。安心して住宅を購入できるだけでなく、家計の課題も解決できるとの声を頂いている。相談業務のほか、セミナー講師、執筆業など情報発信、啓蒙活動にも力を入れている。