65歳から公的年金を受け取ることは誰もが知っている常識かもしれませんが、実は、60歳から繰り上げ受給することも70歳まで繰り下げ受給することも可能です。
年金の繰り上げ受給は最大70%も年金支給額が減額され、年金の繰り下げ受給の場合は最大140%も増額される仕組みとなっていますので、関心のある方は以下の記事をご参照ください。
さて、経済的に生活が厳しく年金を早く受給したい方も多い中で、繰り上げ受給を行うと支給額が削減されてしまうのは耳が痛い話です。しかも一度適用された減額率は生涯適用されてしまいます。
そこで、一部対象者に限定されてしまいますが、65歳よりも早く年金が受給できる例外的な措置として「特別支給の老齢厚生年金」についてご紹介をしたいと思います。
「特別支給の老齢厚生年金」の対象者、請求手続き、支給停止の要件など制度を上手に活用するための知識を知ることで、老後の生活に少しでもお役立てください。
目次
特別支給の老齢厚生年金とは
特別支給の老齢厚生年金とは、年金の支給開始年齢が60歳から65歳に引き上げされた際に、段階的に支給年齢を引き上げることを目的として制度化されました。
特別支給の老齢厚生年金は性別と生年月日で受給できる対象者が変わりますので要件を確認してみましょう。
- 男性の場合は1961年4月1日以前に生まれたこと。
- 女性の場合、1966年4月1日以前に生まれたこと。
- 老齢基礎年金の受給資格期間(10年)があること。
- 厚生年金保険に1年以上加入していたこと。
- 60歳以上であること。
加えて、「特別支給の老齢厚生年金」には、報酬や加入期間によって変動する「報酬比例部分」(年金の2階部分)と定められた年金保険料を納め決まった額を受給できる「定額部分」(年金の1階部分)の2つのパターンがあり、そこに性別や生年月日によって支給年齢が変わる仕組みとなっています。
特別支給の老齢厚生年金の支給年齢
それでは、性別と生年月日から実際に「特別支給の老齢厚生年金」が支給される年齢を解説したいと思います。
黄色が「報酬比例部分」、オレンジ色が「定額部分」になり、水色が65歳から受け取れる「老齢厚生年金」、青色が同じく65歳から受け取れる「老齢基礎年金」となります。
日本年金機構より参照しますが、すでに65歳を超えている昭和27年以前に生まれた方は割愛したいと思います。

【男性】1949年4月2日~1953年4月1日
【女性】1954年4月2日~1958年4月1日
特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分を60歳から繰り上げ受給することが可能になります。一方で特別支給の老齢厚生年金の定額部分は65歳からの受給となります。

【男性】1953年4月2日~1955年4月1日
【女性】1958年4月2日~1960年4月1日
特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分を61歳から繰り上げ受給することが出来ます。定額部分は65歳からの受給となります。

【男性】1955年4月2日~1957年4月1日
【女性】1960年4月2日~1962年4月1日
特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分を62歳から繰り上げ受給することが可能になります。3年分でも早く受給できるのは生活面で楽になる方も一定数いることでしょう。

【男性】1957年4月2日~1959年4月1日
【女性】1962年4月1日~1964年4月1日
特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分を63歳から繰り上げ受給することが可能になります。男性であれば現在60歳付近の方が対象になるでしょうから制度をよく理解しておきたいところです。

【男性】1959年4月2日~1961年4月1日
【女性】1964年4月2日~1966年4月1日
特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分を64歳から繰り上げ受給することが可能になります。1年程度の繰り上げ受給なので金額的には大きくはないでしょうが、少しでも老後資金を蓄えるために受給した方が良いでしょう。

【男性】1961年4月2日以降
【女性】1966年4月2日以降
男性1961年、女性1966年4月2日以降に生まれた方は、特別支給の老齢厚生年金の対象外となります。特別支給の老齢厚生年金は年金受給年齢の引き上げを段階的に実施する事で影響を緩和する目的の制度になりますので、上記の以降に生まれた方はその影響を受けないとされています。

特別支給の老齢厚生年金は繰り下げ受給が出来ない
繰り上げ受給として役割を果たす「特別支給の老齢厚生年金」ですが、経済的に余裕があることから繰り下げ受給を希望するケースもあるでしょう。
通常の老齢厚生年金は繰り下げ受給することで最大140%も受給できる年金額が増えることから特別支給の老齢厚生年金も合わせて繰り下げすることで、受け取れる年金額がさらに増えるのでは?ということですが、残念ながら特別支給の老齢厚生年金は繰り下げ受給することができません。
加えて、60歳から65歳まで期間のみ適用される制度となりますので、申請を怠ってしまうとそもそも特別支給の老齢厚生年金の受給が出来なくなりますので必ず申請を行うようにしましょう。
特別支給の老齢厚生年金の請求手続きと必要書類
特別支給の老齢厚生年金の受給権利が発生する方に対して、支給開始年齢に到達する3ヶ月前に「年金請求書(事前送付用)」と「手続きの案内」がご自宅に日本年金機構から郵送されてきますので、この請求書を最寄りの年金事務所に提出するようにしましょう。
ただし、請求書の受付は支給開始年齢に到達してからとなりますので、支給開始年齢到達前に手続きをしようとしても受け付けてもらえないので注意しましょう。
申請時に必ず必要となる書類は以下となりますが、人によって必要書類が異なる場合がありますので、事前に日本年金機構に確認することをおすすめします。
必要書類 | 備考 |
年金請求書 | 年金事務所や年金相談センターの窓口にも備え付けがあります |
戸籍謄本や住民票など | 生年月日について明らかにすることができるもの |
金融機関の通帳等 | カナ氏名、金融機関名、支店番号、口座番号が記載された部分を含む預金通帳 |
印鑑 | 捺印可 |
年金手帳 | 必要がない場合もありますが持っていきましょう。 |
支給停止の要件とは?働きながらでも特別支給の老齢厚生年金は受給可
特別支給の老齢厚生年金は働きながらでも受給することが可能になります。ただし、一定所得以上になった場合は支給停止となりますので注意が必要です。
基本的には月の所得(基本月額+総報酬月額)の合計が28万円以下であれば支給停止額は0円となりますが、それ以上の所得がある場合は、所得に応じて段階的に支給額が減額される仕組みとなっています。以下は日本年金機構より老齢年金の支給停止の説明資料から抜粋しております。

特別支給の老齢厚生年金の支給停止手続き
所得が一定額以上でなければ特別支給の老齢厚生年金を受け取ることが可能ですが、中には「特別支給の老齢厚生年金の受給を希望しない」方もいるでしょう。このような方は請求を行わなければ支給されることはありませんので特別な手続きは不要です。
ただし、特別支給の老齢厚生年金を65歳になるまでに請求しなければ65歳以降の年金受給額が増えると考え、支給停止を行おうとしている方は要注意です。
残念ながら、特別支給の老齢厚生年金を受給してもしなくても65歳以降の支給額が増えることはありませんので注意をしましょう。
そもそも、特別支給の老齢厚生年金と通常の老齢厚生年金は別物である。と考えると良いでしょう。そのため、増額を期待して支給停止を行なっている方は早々に請求を行うことをおすすめします。
年金の種類によって変わりますが、老齢厚生年金の請求漏れによる時効は5年になりますので、5年以内であれば過去に遡って請求することが可能になります。
従って、上記のように勘違いから特別支給の老齢厚生年金を受給していなかった場合は時効内であるか確認の上で再度請求を行うようにしましょう。
特別支給の老齢厚生年金のまとめ
特別支給の老齢厚生年金の制度について解説を行いました。65歳よりも早く年金が受給できる制度ですので、助かる方は非常に多いのではないでしょうか。
繰り下げ受給が出来ないなど、通常の老齢厚生年金とは異なる部分もありますので申請漏れが無いように確認を行い対処するようにしましょう。